マレーシア一人旅 クラブでジャパニーズサムライ魂を見せつけてきた

 

 

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僕らは二手に分かれて車に乗った。

遅れてきた男と僕とウォンがタカシの車に乗り、途中で来た2人の男女はその男の方の車に乗った。

 

遅れてきた男は遅刻したことを謝りながら全員と握手を交わした。どうやらタカシの高校の友達らしい。

 

男は身長170センチほどで痩せ型。

黒縁の大きなメガネに厚めの唇、長い黒髪にサイズが合っていないジャケット。なかなか面白い格好をしている。

 

タカシの車に乗り込むと、その男は僕の隣に座ってきた。

 

ー日本の青年よ、僕の名前は○×△だ。よろしく!

 

なんだか発音が難しくて名前が全然聞き取れなかった。お酒も回っていて頭がぼんやりしている。もう一度聞いてもよく分からなかったのでとりあえずそのままにしておくことにした。

 

ー僕は旅をするのが好きでね、3回くらい日本に行ったことがあるよ。君はお台場にあるガンダムの像を知っているかい?僕はガンダムが大好きなんだ。あれを作った人は天才だよ。デザインもクールだ。

 

彼は日本が大好きで、何度も行ったことがあるらしい。ガンダムの大ファンだそうだ。

他にも日本の近代建築が好きらしく、僕の好きな建築家の丹下健三氏のことも知っていた。デザインの勉強をしているらしい。

 

大学を途中でやめすでにデザイン事務所に入り、今はバリバリ仕事をしているということだった。

 

仕事の傍ら、時間ができた時に世界を放浪しているらしい。

日本が好きということなので、僕も色々と質問したりした。

 

彼は生まれはマレーシアだが、今は基本的にシンガポールで生活しているらしい。マレーシアとシンガポールは陸続きになっており、マレーシアの南の先端にシンガポールがちょこんとくっついている形になっている。

 

僕はこの旅行中、ウォンや彼の友達、そして彼のお母さんに23日は短すぎるよと毎回言われた。

 

大学をあまり休まないようにスケジュールを組んだので仕方ないが23日ではクアラルンプールしか楽しむ時間がない。

 

マレーシアはもちろん、クアラルンプール以外にも観光名所がたくさん。ペナン島やランカウイ島などリゾート地も有名だ。

 

クアラルンプールとシンガポールの距離は東京と名古屋ほどの距離だ。現地の人もよくマレーシアとクアラルンプールシンガポールを行き来するらしい。

 

もう少し時間があれば行けたのになぁと思いながら男の話に耳を傾けた。

 

タカシの車は夜のシンガポールを駆け抜ける。0時を過ぎたが、交通量は未だに多い。もうスピードで深夜のクアラルンプールを突っ走っていく。

 

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街中にはやたら緑のライトが目立った。そのことを男に聞くと、今はちょうどムスリムの1ヶ月に渡る断食が明けたことを祝うハリ・ラヤ・プアサというイベントの最中で、イスラム教で神聖とされる緑で街がライトアップされているということだった。

 

マレーシアは異なる宗教、民族が織り混ざったミックスカルチャーの国だ。キリスト教のお祭り、ヒンドゥー教のお祭り、イスラム教の祭り、そして中華系の祭り。そういった祭りが年がら年中行われておりイベントが絶えないそうだ。

 

高層ビル群の間をくぐり抜け、僕らはKLCCへと向かった。

 

と、その時急ブレーキがかかり、僕はしたたかに頭を前の座席に打ち付けた。

 

一瞬死ぬんじゃないかと頭を走馬灯が駆け巡った。昨日から続くこのマレーシア旅行のことが頭の中にフラッシュバックした。

 

ファック!!!とタカシが叫んだ。温厚なタカシがブチギレたのも無理もない。隣の車が無理やり割り込もうとして来たのだ。危うくぶつかりそうになりタカシが急ブレーキをかけたのだ。

 

運転手のタカシはすでにかなりウォッカを飲んでいる。なんなら車内みんな酔っ払っているのでかなり危険だ。

 

このデンジャラス体験ですっかり目が覚めた。やはりマレーシアは油断ならない。気を引き締めていかねば。

 

ーごめんね、深夜になると運転が荒い奴がいっぱいいるんだ。普段はこんなことはないんだ。どうか許してくれ。

 

とタカシがものすごい謝ってきた、いやいや、そんなの全然気にしてないよ。と伝える。

 

そして何故か隣に座っていた男もタカシ以上に申し訳なさそうな顔で謝ってき。いや、あんたは運転してないだろう。両手をとって深々と頭を下げ”ゴメンネゴメンネ”と日本語で言っていた。

 

暗闇でよく顔が見えなかったか、この男誰かに似ている。黒縁メガネ、厚い唇に長い黒髪。これは...確か...

 

車はその後も深夜のクアラルンプールを駆け抜けやがてペトロナスツインタワーの下まで来た。

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うーん大きい。壮観である。

 

今日行くクラブはこのあたりにあるらしく、近くの駐車場に車を止めるらしい。

 

そのままタワーの地下にある駐車場に車を止めた。僕がカバンを背負って車を降りるとタカシが

 

ーおいおいヒロシ。これからピクニックにでも行くのか???そんな荷物じゃ踊れないだろう!手ぶらにならないと!

 

と言って来た。確かにそうだ。しかし車に荷物を置いておいて万が一はぐれたりしたら日本に帰れない。時刻は深夜1時。12時間後には空港にいる。

 

仕方なく僕はスマホと財布とパスポートとポケットWi-Fiをポケットに詰めて車を降りた。このうち一つでも亡くせば帰国が困難になる。何としても死守せねば。

 

駐車場を出て中に入ると閉店したショッピングモールに出た。すでにエスカレーターも止まっている。清掃員さんが掃除をしていた。その横を駆け上がる。

 

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左に映るのが例の男で右がウォンだ。やっぱり誰かに似ている。

 

外に出た。深夜のクアラルンプールのど真ん中に僕は立っている。さっき知り合ったばかりの現地の人と共に。不思議な感慨に包まれた。

 

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ーヒロシ、写真を撮ってやるよ。

 

と例の男が親切に言ってくれた。カメラを渡すと男はヘンテコな走り方でダッシュし、この角度がいいかなとためらうことなく地面に寝転がり写真を撮ってくれた。いいやつすぎる。

 

こんなかっこいいジャケットを汚してまで撮ってくれてありがとう、と伝えると

 

ーいいんだ。これはNYで買ったんだけどね、僕ならもっといいデザインのジャケットを作れるよ。ハハ。

 

とウィンク。こいつキャラができている。男はスキップしながらクラブへクラブへ向かっていった。

 

間も無く到着。”Kyo”というクラブでエントランスは人で溢れかえっている。

 

ウォンにスリが多いから気をつけてと言われポケットをがっちり守る。例の男はまだ中にも入っていないのに踊り出している。

 

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もう一手の男女はすでに中にいるということだった。

20分ほど並んで入場する。入るときに身分証としてパスポートを提示する。僕は原本をそのまま持って来てしまったが普通は失くしてもいいようにコピーを持ってくるものだ。これは失敗した。

 

客はマレー系、中華系の現地人から、韓国、ヨーロッパ系の観光客まで幅広い。日本人は見たところ誰もいない。

 

入り口の時点で既にハイテンションの男。 

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ん???やっぱりこいつ...誰かに似ている......あ!!!

 

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ロッチの中岡だ!!!

 

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似ている!!!

 

僕は親しみを込めて彼を”ナカオカ”と心の中で呼ぶことにした。

 

ウォンとタカシに連れられナカオカとフロアを歩く。すでに中は大盛り上がり。

 

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そして驚いたことに連れてこられたのはVIP席だった。

タカシの友達らしき中東系のお兄さん二人とグラマラスなお姉さん二人がすでにソファに座ってシャンパンを飲んでいた。先に入ってた二人も合流。

 

僕もそれに混ぜてもらう。

 

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EDMが響き渡るフロアで叫ぶように自己紹介。たまたま日本で二週間前に終電を逃した時にウォンと出会いそのままオールした旨を伝えた。

 

しかし僕の英語が下手だったのかうるさくて聞こえなかったのか分からないが、僕はウォンと会うために飛行機を取って単身マレーシアに乗り込んで来たと解釈されてしまった。

 

ーウォー!!!ユーアークレイジージャパニーズ サ〜ムラ〜イ!!!

 

とタカシの友人は大盛り上がり。どんどんシャンパンを注いできた。

いやいや、もともと飛行機は取っててその後にたまたまウォンと知り合ったんだよね...と伝える間も無く彼らとアツいハグをした。

 

とここで忘れないうちにお金を払った。80RM(日本円で約2400円)を払う。これはめちゃめちゃ安い。日本のクラブは入るだけで3000円かかり、彼らのようにVIP席を取ってシャンパンを頼んだりしたら数十万から百万単位でお金がかかる。

 

それをたった2400円で体験できてしまった。安すぎる。

 

 

 

しばらくお酒を楽しんだ後、ウォンとナカオカとフロアに出た。

もみくちゃになりながら踊る。

 

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めちゃめちゃ楽しい反面、僕はポケット入っているパスポート、財布、スマホ、ポケットWiFiが心配で仕方なかった。このうち一つでも欠ければ帰国が難しくなる。特にパスポートと財布を失くしたら一発アウトだ。

 

そこで僕は必殺技を生み出した。

 

リズムを取っているように見せかけながら、左手で左のポケットを叩き、中にスマホポケットWiFiがあるかを確認し、右手で右のポケットを叩き、中のパスポートと財布を確認する。

 

一見音楽に合わせノッていると見せかけ2秒に一回持ち物の安否を確認できる最強の技だ。僕はこのヘンチクリンな踊りをずっと続けた。これなら踊ってるように見えて怪しまれない。完璧だ。

 

そして僕はナカオカと踊り続けた。

 

お気に入りのジャケットでノリノリのナカオカ。

 

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人混みに突撃するナカオカ。

 

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音楽を心で感じるナカオカ。

 

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女の子と和むナカオカ。

 

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ピンボケしたナカオカ。

 

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酒が回ってきたナカオカ。

 

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介抱してもらうナカオカ。

 

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体調が回復し、美女が写真を撮るために光を当ててあげるナカオカ。

 

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光を当て続けるナカオカ。

 

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写真を確認するナカオカ。

 

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僕もいいかい?と一緒に撮ってもらいキメ顔をするナカオカ。

 

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いい笑顔のナカオカ。

 

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調子に乗りすぎたナカオカ。

 

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僕はナカオカとフロアを駆け巡った。

踊りなんてものはよく分からないが、ノリノリで踊るナカオカを真似し、二人で体を動かした。

 

ナカオカ。僕はもう君に夢中なんだ。

 

君のことが気になって仕方がない。この出会いは運命だ。君もそう感じているかい?

 

ナカオカは全身で音楽を楽しんでいた。

 

ーヘイ!ジャパニーズサムライ!楽しんでるかい?

 

僕も負けじとナカオカについていく。そうだ。僕はジャパーニーズサムライ。負けてられるか。ポケットの安全を確認しながらビートを刻み、音に合わせて飛び跳ねる。歌って踊って飛んで叫んで手を振って。

 

全身全霊でマレーシア最後の夜を楽しんだ。

 

 ちなみにこのKyoというクラブは内装のテーマが日本らしく、和の要素が散りばめられていた。

 

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踊り続けること3時間。急に一緒に来てたタカシの友達の女の子の体調悪くなり、そろそろ帰ろうということになり僕らはクラブを出た。

 

ナカオカは不満そうだった。まだ踊り足りないらしい。

 

明け方4時にも関わらず人がたくさんいる。

 

 

そんな中、明らかにこの場に似つかわしくない古びたシャツを来た少年が一人、バラを売り歩いていた。

 

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クラブから出てくる人に売りに近づいては断られていた。

 

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この旅行中、何回かマレーシアの発展途上国の一面を垣間見て来たが、この瞬間が一番印象的だった。

遠ざかる僕らを、少年がじっと見つめていた。

 

タカシが車を持って来てくれるということで僕らはタワーの前でタカシを待った。

 

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ー君は素晴らしいジャパニーズサムライスピリットを見せてくれた。最高の夜だったよ。

 

ナカオカが僕の肩を叩きこう言った。

僕はナカオカと固い握手を交わした。

 

ーこの国は素晴らしいだろう?今まさに急成長を遂げているのさ、この街も。ビルはどんどん高くなって街は綺麗になって人もさらに増える。僕はこのマレーシアのスピード感が好きなんだ。

 

ーまた近いうちに日本に行こうと思ってるよ。その時はヒロシ、僕を案内してくれるかな?

 

もちろんだ。ナカオカ。君とはまたどこかで会える気がする。素晴らしい思い出をありがとう。東京に来たら教えてくれよな。最高のTokyoを君に見せてあげるよ。

 

僕はナカオカとLINEを交換した。金閣寺の前でポーズを決めるナカオカの写真がトプ画だった。いい表情をしている。

 

ナカオカはそのまま回れ右して再びクラブに戻って行った。

 

ーまだまだ僕の夜は終わらないよ!ヒロシ!寝坊して飛行機に乗り遅れるなよ!

 

そう言い残し、ヘンチクリンな走り方で建物の中へ消えて行った。

 

しばらくしてタカシが迎えにきた。

 

 

 

お腹減ったな!何か食べに行こう!と24時間やっているレストランに連れて行ってくれた。

 

 

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ちょうどワールドカップが放送中で明け方4時半というのに大盛り上がりだった。

そこに女の子を家まで届けた男の子も戻って来た。無事に送り届けて来たらしい。

 

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安定のクッソ甘いホワイトコーヒー。もうすっかり好きになった。

オール明けの疲れた体にしみる。

 

続いてオススメのMaggi Gorengという料理が運ばれて来た。

シメのラーメンならぬシメのMaggi Gorengらしい。

 

焼きそばみたいな感じで美味しかった。

 

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食べ終えると眠気が襲って来た。時刻は午前5時。10時間後には飛行機の中だ。

タカシの車に乗り込み、僕のホテルまで送ってもらった。

 

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帰りの車で、ウォンが尋ねてきた。

 

ーヒロシ、楽しかったか?

 

ああ。楽しすぎた。僕はすっかりこの国が大好きになったよ。またすぐに来るよ。みんなありがとう。

 

ウォンとタカシは僕の下手な英語をニコニコしながら聞いてくれた。

 

10分ほど車に乗りホテルに着いた。

 

一人一人に感謝を述べた。

二週間前に出会ったウォンとは、これが別れになる。

 

ーウォン、ありがとう。君と二週間前に六本木で出会って、まさかマレーシアの地で再会できるなんて夢にも思わなかった。君がクアラルンプールの街を案内してくれたこと、僕は一生忘れない。本当にありがとう。

 

ウォンと笑顔で別れのハグをした。自然と涙が溢れてきた。

夢のような二日間だった。本当にありがとう。

 

走り去るタカシの車が見えなくなるまで、僕は手を振り続けた。

 

部屋に戻りシャワーを浴びてベッドに倒れ込んだ。

すでに朝の5時半。3時間後には起きて荷物をまとめないと。

 

それにしても幸せすぎた時間だった。みんな本当にありがとう。いつか日本にきたら一緒に観光しような。今日の恩返しをさせてくれ。僕らは国は違えど、心で繋がった友達だ。それまでにもっと英語も上手になっておくから。またいつか会おう。

 

満ち足りた気分に浸りながら、僕は眠りについた。

 

 

 

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