全国の悩める子羊たちよ「グミ・チョコレート・パイン」を読んでくれ【前編】

 

 

さかのぼること今年の2月。僕は千葉にいた。

北風がぴゅーぴゅー吹くなかえっちらおっちら自転車をこぎ駅まで行き、長く電車に乗ってやっとたどり着いた。

そう。僕はあまり乗り気ではなかったのだ。

 

僕が千葉まできた理由。それはライブだ。

バンド好きの女友達に誘われ、仕方なくきたのだった。

行きたくないなら行かなきゃいいじゃんと思われそうだが、そこは察してほしい。その友達がめちゃめちゃ可愛いのだ。ただの友達であることに変わりはないが、こんな綺麗な子といられるなら行ってもいいかと思ってやってきた。

 

駅で待ち合わせをし、会場に向かう。でかいバンドのライブにしか行ったことのない僕にとってはライブ会場=アリーナだった。さいたまスーパーアリーナとか横浜アリーナとか。

 

吐く息が白くなるくらい寒いなか、人気のない路地を二人歩く。

着いたのは小さなライブハウスだった。

 

 

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こんなに小さいのか。彼女に聞いてみるとお客さんも100人くらいしか入らないらしい。

僕が行ったのはこのライブだった。

 

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僕がライブに乗り気じゃなかった理由の一つが出てるバンドが嫌いだったからだ。

とにかくこの名前が許せない。

 

「おいしくるメロンパン」

 

は?!?!なめてんのか。

初めてこのバンド名を聞いた時、その響きの女々しさに鳥肌が立っちまった。

何が「おいしくるメロンパン」じゃボケ。

名前を聞いただけで身長170cm48kgのキノコ頭のヒョロガリがブカブカのシャツを来て物憂げな表情で歌っている様が想像できる。

180cmくらいのイケメンで明るいやつがギターをやってて、プライドの高そうなメガネがベースだろう。そんでさっきまで寝てましたー!てな感じのモジャモジャ頭がドラムを叩いてるに違いない。うげー。

 

力強さこそかっちょいいと考えている僕にとって、彼らは真反対の存在だった。

まだ一曲も聞いてないけど。偏見でここまで悪口をかける僕も僕だ。とにかくライブに行く前は何としてもこの女々しいバンドたちに反抗しようと、そんな気持ちでいた。(一体何をどう反抗すると言うのだろうか)

 

ライブハウスはクリープハイプとかそこらへんを聞いてそうなメンヘラっぽい男女であふれていた。どうせおいしくるメロンパンと似た鳥肌ネームのマカロニえんぴつだかなんだかを聴いてるんだろう。これまたうげーだ。

 

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カウンターでドリンクチケットを交換してお酒を飲んだ。一緒にいる友達は目を輝かせている。ぎゅうぎゅうの会場をなんとか掻き分け、ステージ前へ。会場、暗転。

 

ジャジャジャーーン!!!!!

 

な、なんだ?なんだこの爆音は???

 

ージャジャジャジャーーーン!!!

 

鼓膜が破れるわい!ん?これはギターなのか??

 

するとステージがパッと明転。

 

ー「こんばんはー!SUNNY CAR WASHでーす!」

 

で、でたー!御察しの通りもさっとした髪の声の高い痩せた男がヒョロッとマイクの前に立っている。

でたなメンヘラホイホイバンドめ。わしゃそこらのへなちょことは違うぞ。おまいらの曲なんかじゃ心は踊らんわ!!!

 

とどうでもいい反抗心を燃やしフンヌと睨みつけた。

が、その1分後。

初めて感じる生の演奏と、謎の会場の一体感に体が、心が踊り出し、このしょうもない敵対心をネチョネチョこねくり回していた若者は誰とも知らぬ隣のにーちゃんねーちゃんと押し合いへし合い、ぐちゃぐちゃになりながら飛んだり跳ねたりした。

 

なんなんだこれは!なんだなんだこれは!

 

 

 

それは今までにない、さいたまスーパーアリーナでも横浜アリーナでも感じたことのない熱だった。ジャンジャカジャンと鳴るギター。心臓にダイレクトで響くベース。耳にこれでもかとバシバシ突き刺さるドラムの音。ボーカルの声はほとんど聴こえない。何より一曲も知らないから歌詞が分からない。それでもこの会場とバンドが一つになった感覚に体が包まれ、はちゃめちゃに楽しい。隣にいる友達も笑顔で飛んだり跳ねたりしていた。

 

続くあの憎っくき「おいしくるメロンパン」はと言うと......

 

こちらもすごかった。

その日の3組の中では一番知名度があり、彼ら目当てに来ている人もいた。

予想通りもっさりヘアのヒョロガリがでて来たが、なかなかやりおる。

一曲も聴いてこなかったが、友達がカラオケで歌っていた曲もあり大盛り上がり。

 

「あの秋とスクールデイズ」が特に良かった。

 

「情けないな 情けないな 情けないな 情けないな 情けないな 情けないな」

 

情けないのはおいらのほうだ。やっぱりよく知らないのに人を叩いちゃいかんよな。おいしくるメロンパンは全員あと体重10kg増やして、歌詞にでてくる「キャラメル」を全部「男梅」とか「タコワサ」に変えてくれればもっと売れそうだ。いや、そんな訳ないか。とにかくおいしくるメロンパンの粗探しに来ていた僕はすっかり彼らの音楽に魅了された。今でも彼らの曲を聴いている。

 

さて、最後に現れたのが「グッバイフジヤマ」だった。トリである。

もちろん初めて聞くバンドで、これまた曲も一曲も知らない。 

 

ー「どーもーグッバイフジヤマですー」

 

これまた声の高いキノコ頭の登場。もういい。そうやって俺のひねくれスイッチをオンにしておいて、すぐパンクでロックでアグレッシブなメロディで虜にしてやろうってんだろ。ああん?!

 

まさに予想は的中。こちらのバンドは軽めのおちゃらけた感じのメロディに合わせ中学生の甘酸っぱい恋愛模様を歌っていた。これまたいいんだよ。

 

どこの馬の骨か分からんにーちゃん、ねーちゃんと手をフリフリ、腰をフリフリしながら飛んだり跳ねたり大騒ぎ。みんな楽しそうだ。もちろん僕も楽しい。

 

 

 

そんな中、急に人の名前を連呼する歌が飛び出た。

 

ー「それじゃあ次の曲は”やまぐちみかこに騙された”ー!!!」

 

ててててんっ!てててんっ!ててて!てってー!

ててててんっ!てててんっ!ててて!てってー!

 

おっと、こいつはなんだ。彼ら特有のポップでかわゆいリズム。そんでもってサビは

 

「や〜ま〜ぐ〜ち み〜か〜こ〜に〜 だ〜ま〜さ〜れ〜た〜

  や〜ま〜ぐ〜ち み〜か〜こ〜に〜 だ〜ま〜さ〜れ〜た〜

  や〜ま〜ぐ〜ち み〜か〜こ〜に〜 だ〜ま〜さ〜れ〜た〜」

 

と来たもんだ。誰だよやまぐちみかこって。そんな疑問をよそにひねくれ者の少年が自分は他人とは違う何かがあると思ってたが、そんなものはなーんにもなくて周りに置いてかれる。そんな詩が歌われた。

 

「人生は〜グミチョコ遊びじゃなかったよ〜」

 

そんな言葉でこの歌は締めくくられた。

間のMC。ギターが

 

「やまぐちみかこって誰だって話だよね笑」

 

といった。そうそれだよ。誰だよやまぐちみかこって。

 

「ま、それは置いといて次の曲行っちゃいましょう!」

 

 

じゃジャジャジャーンとかき鳴らされるギター!いや、教えてくれないんかいっ!

結局そのまま演奏は続けられ、僕らはこの小さなライブ会場の熱気むんむんの非日常体験を終えた。汗もかきクタクタになって友達と会場を後にする。

 

「あのさ、グッバイフジヤマの歌のやまぐちみかこって誰か知ってる?」

「えーわかんなーい。誰かの元カノとかなんじゃなーい?」

 

バンドマンならそうかもしれんなと一人納得し、近くの居酒屋で酒を飲んで帰った。

帰りの電車。千葉から東京に向かう長い間、頭の中はあのメロディーがくるっくる回っていた。

 

「や〜ま〜ぐ〜ち み〜か〜こ〜に〜 だ〜ま〜さ〜れ〜た〜

  や〜ま〜ぐ〜ち み〜か〜こ〜に〜 だ〜ま〜さ〜れ〜た〜

  や〜ま〜ぐ〜ち み〜か〜こ〜に〜 だ〜ま〜さ〜れ〜た〜」

 

誰だそいつは!

 

「人生は〜グミチョコ遊びじゃなかったよ〜」

 

うーん。気になる!そんなことを考えながら今日のバンドの曲をいくつかダウンロードし、聴きながら帰った。百聞は一見にしかず。偏見で侮っていたバンドにパンチを食らったぜ。小さなライブ会場でやるギチギチのバンドも悪くないな。また今度行こう。にしてもやまぐちみかこって誰なんだろう。

 

 

 

その後も彼らの曲を聴き、カラオケでも歌うようになった。

聴きまくったり歌いまくったせいか、いつの間にかやまぐちみかこが誰かも気にならなくなり、歌詞の一部としてこの名前リズムいいなくらいにしか思わなくなっていった。

 

 

さてさてさて。さてさてさてと。

あれから数ヶ月が経ち、何の気なしにTwitterを眺めていると、頭のいい大学に通ってる文学部のひねくれた友達が

 

「結局俺は何でも知ってるふりして何もできないだけのボンクラなんだよなあ...グミチョコ読むか...」

 

なんて呟いていた。

ん???グミチョコ???

 

「人生は〜グミチョコ遊びじゃなかったよ〜」

 

あの歌詞が脳裏に浮かぶ。

グミチョコを読む???もしかしてあれって本なのか?

早速アマゾンで調べると一発でヒットした。

  

グミ・チョコレート・パイン グミ編 (角川文庫)

グミ・チョコレート・パイン グミ編 (角川文庫)

 

 

 

大槻ケンヂ著。グミ・チョコレート・パイン。

 

内容紹介をそのまま引用しよう。

 

 

すべての若きボンクラ野郎に捧ぐ! 青春巨編第一章

五千四百七十八回。これは大橋賢三が生まれてから十七年間の間に行ったある行為の数である。あふれる性欲、コンプレックス、そして純愛との間で揺れる”愛と青春の旅立ち”。青春大河小説の決定版!

 

こ、これだ。グッバイフジヤマが歌ったあの歌は、この”グミ・チョコレート・パイン ”に違いない。

 

ージャジャジャジャーン!!!!!

 

二月のあの寒い夜。外が10度もないのと対照的に人の熱気で汗が吹き出すくらい暑かった千葉の小さなライブハウス。あそこで掻き鳴らされたギターの音が蘇る。

 

うん。

 

刹那。僕はこいつをポチった。

 

二日後。中古で買った「グミ・チョコレート・パイン グミ編」はこんな出だしで始まっていた。

 

五千四百七十八回。

これは、大橋賢三が生まれてから十七年間に行った、ある行為の数である。

ある行為とは、俗にマスターベーション、訳すなら自慰、つまりオナニーのことである。

(グミ・チョコレート・パイン グミ編  P.9 第1章「GORO」より )

 

 

これだ。僕が求めていたものは。

 

グミ編、チョコレート編、パイン編。全3冊合計1022ページに及ぶ賢三との青春が始まった瞬間だった。

 

 

後編に続く。

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