ベネディクト・カンバーバッチと天才数学者アラン・チューリング

 

 

俳優のベネディクト・カンバーバッチが男女に平等に賃金が支払われる作品にのみ出演することを明言し、大きな話題を呼んでいる。

 

 

 

実はたまたま彼の出演している映画を先週観ていたのだが、その作品では彼の性差別問題に対する姿勢を垣間見ることが出来た。

 

 

今回はそんな男女平等に向け活動をする彼が出演したある映画について紹介しようと思う。

 

 

その映画がこの”イミテーション・ゲーム”だ。

 

 

 

 

ベネディクト・カンバーバッチ演じる実在した天才数学者アラン・チューリング の生涯を描いた作品だ。

 

 

このアラン・チューリング は20世紀最高の頭脳と称される恐ろしいほどの天才である。

 

 

彼の業績とその影響は数学、計算機学、生物学、化学など多岐にわたり、もしチューリングがいなければ現在のコンピュータは存在していなかっただろうとも言われている。

 

 

しかし彼の功績が全世界に知るところとなったのは死後20年経ってからのことだった。

 

 

それまでイギリス政府は彼が成し遂げた功績をひた隠しにし、もはやチューリングという科学者は存在すらも闇に葬り去ろうとしていた。

 

 

なぜそこまでする必要があったのか。

 

 

その秘密は彼の最大の功績、世界最強の暗号機”エニグマ”の解読とチューリングの抱えていた秘密にあった。

 

 

この映画ではいかにしてチューリングがエニグマを破ったのか、そして彼がどんな生涯を送ったのかをかなり史実に忠実に描かれている。

 

 

舞台は1939年のイギリス、ブレッチリーパーク。

 

 

偶然にも、以前紹介した”英国王のスピーチ”のクライマックスでのジョージ6世のドイツとの戦争に向けて国民を鼓舞する演説でこの物語は始まっている。

 

www.nakajima-it.com

 

 

 

このブレッチリーパークには表向きは”無線製造工場”と名付けられた、”政府暗号学校”があった。

 

 

 

 

そこに集められたのが6人の天才たちだった。

 

 

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その6人のうちの1人がこの物語の主人公、アラン・チューリングである。

 

 

彼らはナチスの最強の暗号機、エニグマの解読のために集められたのだった。 

 

 

僕がこの映画を見た理由は、チューリングもエニグマのことも知っていて興味があったからだ。

 

 

というのも以前紹介したこの記事で紹介した”暗号解読”にチューリングの生涯が詳しく書かれている。

 

 

www.nakajima-it.com

 

この”暗号解読”は本当に面白い。紀元前から現代に至る暗号の歴史が書かれており、筆者は”フェルマーの最終定理”の著者で有名なサイモン・シンである。

 

この”暗号解読”で一番ページを割かれているのがチューリングとエニグマの項目である。

 

 

いかにしてチューリングがエニグマを解読したか。

 

 

解読に至るストーリーは涙なしには読めなかった。

 

 

エニグマの仕組みはとにかく複雑で他記事の引用で済ませておくことにする。

 

karapaia.com

 

 

いかにエニグマの解読が困難だったかというと、エニグマの解読に必要な”鍵”は159,000,000,000,000,000,000通りもあり、その鍵は一日単位で新しい鍵に変わってしまう。つまりチューリングたちは159,000,000,000,000,000,000通りもの候補の中から正解を一つ、24時間以内に見つけ出さなければならなかったのだ。

 

 

0時を告げる鐘がなった瞬間、彼らの1日の努力は水泡に帰す。

 

当然当時の技術ではそんな膨大な量の鍵を全て試すことなど到底不可能であり、24時間という期限がさらに解読を不可能にしていた。

 

 

一体どうすればエニグマを突破できるのか。

 

 

そこでチューリングが発明したのが、”クリストファー”と名付けたこの巨大な機械だ。

 

 

 

仲間の反対を押し切り”クリストファー”を開発したチューリング。しかし”クリストファー”とチューリングの頭脳を持ってしてもエニグマの秘密を破ることはなかなかできなかった。

 

 

そんな中、ひょんなことからチューリングはエニグマを解読する鍵を見つけるのだが、詳細についてはぜひ映画を観るか、”暗号解読”を読んで見てほしい。

 

暗号解読〈上〉 (新潮文庫)

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暗号解読 下巻 (新潮文庫 シ 37-3)

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ちなみにこの映画もAmazon Primeで無料で観ることができます。

 

 

 

 壮絶な苦労の末にチューリングはエニグマを解読。

 

 

彼のおかげでドイツ軍の情報は筒抜けになり、連合国は優位に戦争を進めることができた。

 

チューリングの功績により、第二次世界大戦の終結は2年以上早まったと言われている。

 

 

彼が救った命は数十万、数百万にも登るとされ、全世界の賞賛を受ける...はずであった。

 

 

しかしチューリングは1954年、41歳の若さでこの世を去った。

 

 

この死の原因に、この映画のもう一つの鍵、そしてチューリングを演じたベネディクト・カンバーバッチの性差別撤廃運動に繋がる理由が隠されている。

 

 

ここから先はネタバレになるので、これから映画を観ようとしている方は読まないでほしい。

 

 

 

 

 

 

 

チューリングが若くして亡くなった理由。

 

 

 

 

 

 

それは女性ホルモンの強制投与だった。

 

 

 

 

 

 

女性ホルモンの強制投与。これはどういうことか。

 

 

 

 

 

 

 

 

そう。チューリングは同性愛者であったのである。

 

 

 

当時のイギリスでは同性愛は犯罪行為であった。

 

 

 

1952年、チューリングは同じく同性愛者のアーノルドと出会う。彼らは関係を持ち、親密な仲になったが、まもなくしてチューリングの自宅に泥棒が入った。

 

 

その泥棒の手引きをしたのが、チューリングと深い仲にあったアーノルドであったのだ。

 

 

警察の捜査でアーノルドとの関係を知られてしまったチューリングは有罪判決を受ける。

 

 

入獄か化学的去勢を迫られた彼は、薬物投与による化学的去勢を選んだ。

 

 

実は先ほど紹介したエニグマ解読の機械の名称”クリストファー”は、彼が寄宿学校時代に出会い、彼に暗号を教えてくれた初恋の相手”クリストファー・モーコム”から取られている。

 

 

 

クリストファーに告白しようとした矢先、彼は結核により亡くなってしまい、チューリングの想いは届かぬままに終わってしまった。

 

 

それと同時に、彼の同性愛も周りに知られるところにはならなかったのである。

 

 

 

チューリングは警察の指示のもと、強制的に女性ホルモンを投与された。

 

 

そして1954年6月8日、自宅で亡くなっているのを発見された。

 

 

検死の結果、青酸中毒による自殺であることが判明、ベッドには齧りかけのリンゴが転がっていた。

 

 

同僚によれば、チューリングは生前、映画”白雪姫”を見た際に

「魔法の秘薬にリンゴを浸けよう、永遠なる眠りがしみこむように」

とよく言っていたそうだ。

 

 

白雪姫のワンシーンを真似た、数十万、数百万の命を救った彼の死は、政府によって長い間闇に葬られた。

 

 

それはエニグマの解読という国家最高機密に加え、同性愛という当時の法を犯したことも理由であっただろう。

 

 

このように世界的な功績を残しながら同性愛への差別のより悲劇の死を遂げた数学者を演じたベネディクト・カンバーバッチは、以後精力的に男女平等に向けた活動を続けていく。

 

 

 

2013年には業界の友人とともにSunny Marchという制作会社を設立。女性スタッフを中心に女性にフォーカスした作品を作っている。

 

 

 

そして今回、ハリウッドの男女賃金格差問題に関して、これからは女性共演者にも平等な出演料が支払われる作品にのみに出演する考えを表明するに至った。

 

 

 

 

こういった背景を知って映画を観ると面白さが一層増すと僕は思う。数学ファンも、歴史好きも、誰でも楽しめる作品になっているので、皆さんもぜひ観てみてください。

 

 

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