100日後に死ぬワニと黒い白鳥

 

『ブラックスワン』という不確実性とリスクを扱った有名な本がある。

 

抽象度が高く理解するのが非常に難しいのだが、元トレーダーで統計や確率の学者でもある筆者が、様々な具体例を上げながら人はなぜ因果関係を求め、リスクを誤って捉えてしまうのかをユーモアも交えて論じている。

このブラックスワンでは文字通り「黒い白鳥」という言葉が登場する。

「黒い白鳥」

それはめったに起こらない非常に大きなインパクトを衝撃を持った出来事を指す。東日本大震災や9.11同時多発テロがまさに「ブラックスワン」だ。そしてブラックスワンはそれが誰も予想できなかった出来事にも関わらず、「こんな理由があってこれが起きたのだ」と後付けで原因がでっち上げられてしまう。トランプ大統領の誕生も多くの人が予想外だと驚いたにも関わらず、その日のニュースにはあたかも当選したことが決まっていたかのような様々な理由ばから並べて放送される。

トランプ以外の候補者が当選した場合も、同じようにそれらしい理由が列挙される。しかしトランプが当選したためその理由たちはまるで最初から存在すらしていなかったかのように扱われてしまうのだ。私たちは未来を予想しようとするが、その仮定で多くの要因を見落としている。そして結果に後付けで理由を付け足し、因果関係をでっち上げてしまうのだ。

ブラックスワンのなかに面白い話があった。次のグラフを見てほしい。

これは感謝祭を迎えるまでの七面鳥の心境をグラフにしたものである。生まれてから感謝祭を迎えるまでの1000日の間、七面鳥は毎日エサを与えられる。「いつもエサを持ってくるあの男は僕を可愛がってくれている。なんて幸せなんだろう。この幸せが今日も明日も続くに違いない。」そう思いながら生きている。そして1000日目、突然七面鳥は首を切られ丸焼きにされてしまうのだ。

七面鳥は1000日目も、1001日目もおいしいエサをもらえると思っている。七面鳥はまさか自分が丸焼きにされるだなんて予想だにしない。しかし1000日目に突然どこからともなく現れた黒い白鳥”ブラックスワン”によって全てが終わってしまうのだ。丸焼きにされるというブラックスワンは、七面鳥にとって「予想外で」「衝撃が大きい」出来事である。(だって死ぬんだから!)

天国から七面鳥の魂が丸焼きにされた自分の亡骸を見て、こう考えるかもしれない。

「そうか!80日目に”今年も感謝祭でおいしいご飯が食べられる”ってエサをくれるアイツが言ってたのは、そういうことだったのか!」と。しかしそれは丸焼きにされたというブラックスワンが起きたからでっち上げられた理由にすぎない。もしそのブラックスワンが起きなければ80日目の会話なんて思い出されることすらなかっただろう。

僕たちは当たり前がずっとこの先も続くと思って信じて疑わない。

そしてこれは、大反響を呼んだ100日後に死ぬワニにも当てはまる。

ワニは100日目に交通事故で亡くなった。そして99日目まで、いや交通事故に遭う1秒前まで、まさか自分が交通事故で死ぬだなんて思いもよらなかった。「交通事故で死ぬ」これはまさに黒い白鳥”ブラックスワン”だ。

「◯日目のあのシーンが交通事故を暗示してたんだ」なんて考察も見受けられるが、これも後からでっち上げた理由に過ぎない。もし死因が転落死だったり殺人だったり他の原因だったとしたら、同じように「あれが伏線だったんだ」と考察する人が跡を絶たないはずだ。

僕たちはどうしても物事に因果関係をつけたがる。原因があって、結果が起こる。この当たり前の論理を見つけると安心するからだ。この当たり前を全く無視した予想不可能な衝撃的な出来事"ブラックスワン"が起きると混乱し、どうにかして因果関係を見つけようとする。

 

100日後に死ぬワニのラストはとても悲しい終わり方だった。しかし僕らもワニと同じで、ある日突然ブラックスワンが現れて命を落とす可能性がある。そしてワニと同じように死ぬその日まで、死ぬ1秒前まで、まさか自分が死ぬだなんて思いもしない。ブラックスワンの出現を予測することは不可能だが、不確実性とリスクの本質を頭に入れながら生きていけば、予期せぬブラックスワンの出現にも冷静に対処できるようになるかもしれない。

ちょうどブラックスワンを読み終えた数日後にワニが亡くなり、書いてある内容とリンクする部分があるので思うところを書いてみた。それでは素敵な1日を。

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