「君たちはどう生きるか」が描く真っ直ぐな成長に心を打たれた

 

  

君が何かしみじみと感じたり、心の底から思ったりしたことを、少しもゴマ化してはいけない。そうして、どういう場合に、どういうことについて、どんな感じを受けたか、それをよく考えて見るのだ。

そうすると、ある時、ある所で、君がある感動を受けたという、繰り返すことのないただ一度の経験の中に、その時だけにとどまらない意味のあることが分かって来る。それが本当の君の思想というものだ。これは、難しい言葉で言い換えると、常に自分の体験から出発して正直に考えてゆけ、ということなんだが、このことは、コペル君!本当に大切なことなんだよ。ここに誤魔化しがあったら、どんなに偉そうなことを考えたり、言ったりしても、みんな嘘になってしまうんだ。

「君たちはどう生きるか」吉野源三郎 (岩波文庫 P.53,54より引用)

 

 

 

 

「君たちはどう生きるか」というメガネをかけた真剣な顔つきをした少年が表紙を飾る漫画の広告を電車で見たことがある人も多いだろう。実はこの作品は今から80年以上も前の1937年に吉野源三郎氏によって書かれた小説「君たちはどう生きるか」が原作の漫画だ。

 

漫画 君たちはどう生きるか

漫画 君たちはどう生きるか

 

 

最近はこのように昔の作品をコミックにリメイクするというのが流行っているのだろうか。君たちはどう生きるかの漫画版も大ヒットしている。

 

僕としては是非とも原作の小説を読んでみたくこの度買ってみたのだがとても良かった。

この小説が描くのは、幼いうちに父親を亡くした少年コペル君とその叔父さんとが、コペル君の成長を通じて人としてどのように生きる道がまっすぐで正しいのかを学んでいく過程を描いた物語だ。

 

 

 

このコペル君という主人公は僕らと何も変わらないごく平凡な中学生だ。 もちろん舞台となっている時代は違えども共通点はある。コペル君も僕らと同じで友達は大切だし先生の言うことはきちんと聞いた方がいいと思うし怖い先輩には臆してしまう。

 

お金持ちの友達がいれば貧乏な友達もいるし 喧嘩が強い友達もいればクラスのいじめられっ子もいる。

 

夜空の星を見上げれば美しいと思うし、庭に咲く一輪の花を見ればその生命力に感動する。それを言葉に言い表すことはできなくとも、少年ながらにしてそれを美しいと感じたり綺麗だなと感じたりする心は持っている。

 

もちろんそれは僕らだって同じだ。

そう、この「君たちはどう生きるか」は僕らと全く同じ、ごく平凡な少年が成長していく様を描き、読んでいるこちらも大いに共感できる作品なのだ。

 

 

この作品は一言で言い表せば道徳の教科書だ。

 

ナポレオンの話を聞いて英雄とは何かを自分で考えてみたりニュートンがリンゴが落ちる様から万有引力を発見したという伝説を聞き、なぜそのような発見ができたのかに思いを巡らせたり。

どんなときも一緒だと約束を交わした友達を裏切ってしまったり、ごめんなさいが言えなくてもじもじしてしまったり、嘘をついて申し訳ない気持ちになったり。

 

そういう皆さんも一度は経験があるような場面において、一人の人間として僕たちはどうするべきなのかをコペル君の叔父さんが優しく説いてくれる。

 

その言葉はどこまでも真っ直ぐで論理的で強制させるような威圧感はなく真っ当な一人の人間としてどう生きるべきかをコペル君と共に学ぶことができるようになっている。

 

 

 

何を今更そんな道徳じみたことを本から学ばなくてはならないのだろうかという人も多いだろう。しかし僕らは今の競争社会に疲れているのではないだろうか。毎日誰かと戦い、誰かの上に立ち、勝つためならば手段をも厭わない。もちろん時代は変わっているしそれは悪いことではないだろう。人にはそれぞれ生き方というものがある。

 

ただこの作品で描かれるコペル君の叔父さんは、亡くなったコペル君の父親の「息子にまっすぐに育ってほしい」という願いを叶えるため、どこまでも真摯に、「正しい、潔い、素直な生き方」とは何かをコペル君と一緒に探していく。

 

そのような道徳や生き様に今の人たちも懐かしさや感動を覚え、これほどまでにヒットしているのではないだろうか。

皆さんもこの作品で描かれる誰しも一度は経験があるような少年らしい気まずい体験や素直に感動を覚えた経験から学べることがきっとたくさんある。

そしてこの作品で描かれるような純粋で嘘のない生き方に触れることで僕たちはどう生きるかについて考えを巡らすことができるかもしれない。是非手に取って読んでみて欲しい。

 

そして読んだ後、改めて自分に問うてみてほしい。

 

「僕たちはどう生きるか」

 

と。

 

 

君たちはどう生きるか (岩波文庫)

君たちはどう生きるか (岩波文庫)

 

 

ちなみに「君たちはどう生きるか」の映画を現在スタジオジブリの宮崎駿監督が製作中だ。僕はジブリで義務教育を終えたと常日頃言っているくらいジブリが大好きだ。宮崎駿監督の手で、コペル君の容姿は黒縁メガネのジブリ男子にぴったりだし、風立ちぬに続き描かれる昭和の様子も楽しみだ。

 

 

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