意識高い系中島diary

都内在住。意識高い系大学生の見聞録。Twitter ID @Nakajima_IT_bot

映画「スリー・ビルボード」を観て広告の持つ力について考えた

 

先日アカデミー賞が発表され、ギレルモ・デル・トロ監督の”シェイプ・オブ・ウォーター”が作品賞や監督賞を含む4部門に輝いた。

 

そして主演女優賞に選ばれたのが”スリー・ビルボード”のフランシス・マクドーマンドだ。

 

実はアカデミー賞が発表される二日前にこの映画を観ていたのだが、非常に面白かったので今回はそれについて紹介したい。

 

”スリービルボード”をまず知ってもらうためにTOHOシネマズに載ってる作品紹介をそのまま引用しよう。

 

ミズーリ州のさびれた道路の3枚の広告看板にメッセージを出したのは、7カ月前に何者かに娘を殺されたミルドレッド。犯人は一向に捕まらず、何の進展もない捜査状況に腹を立て、警察署長にケンカを売ったのだ。署長を敬愛する部下や町の人々に脅されても、一歩も引かないミルドレッド。その日を境に、次々と不穏な事件が起こり始め、やがて思いもかけない、誰もが想像できないドラマが始まる──。

hlo.tohotheater.jp

 

とある。僕は前知識ゼロで映画を観るのが好きなので、この紹介だけを読んで劇場に行ったのだが正直どういう映画なのか見当がつかなかった。

 

娘を殺された母親の悲しみを描いた泣ける映画なのか、不穏な事件が怒るとあることからホラー映画なのか、はたまた犯人を追い詰めるサスペンスなのか。

 

映画を観た後に予告編を見てみたが正直これを見てもどんな映画かは予想できなかったと思う。

 

 

この映画の主役はバンダナを頭に巻いたいかにも一癖ありそうなおばさんだ。実際このおばさんは自分に刃向かう奴は誰であろうと汚い言葉で罵り摑みかかる。非常に気が強い迷惑なおばさんなのだ。

 

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物語はこのおばさん、ミルドレッドの娘のアンジェラが殺され、一向に捜査が進展せずに7ヶ月の時が経ったところから始まる。

 

 

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ミルドレッドが地元警察の怠慢に怒り、町のさびれた道路に作ったものー

それが三枚の看板”スリービルボード”だったのだ。

 

 

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ミルドレッドが地元の広告会社に頼んで作ってもらった三枚の看板にはこう書いてある。

 

”RAPED WHILE DYING”

ー娘はレイプされ焼き殺された

 

”AND STILL NO ARRESTS?”

ー犯人はまだ捕まらないの?

 

”HOW COME, CHIEF WILLOUGHBY?”

ーどうしてウィロビー署長?

 

娘が殺された状況の悲惨さ、犯人が未だ捕まらない焦燥、地元警察の署長を直接名指しで批判。この強烈なメッセージを放つ3つの看板を巡り、小さな町で様々な事件が起こり始める。というのが大まかなストーリーだ。

 

僕が思うにこの作品のテーマは”怒り”だ。

原題が『Three Billboards Outside Ebbing Missouri』であるように、映画の舞台はミズーリ州エビングの郊外。アメリカの中西部に属する州で、エビングというのは架空の町だ。

 

この”ミズーリ州”というのが重要な意味を持ってくる。というのも2014年に白人警官が18歳の黒人青年を射殺したマイケル・ブラウン事件が起こったのが、このミズーリ州だ。この事件が発端となり、全米で人種差別への抗議が起こったのだ。

 

このような差別、偏見の陰険な空気が作品を通して描かれている。

例えば劇中に登場する警察官たちは白人至上主義者で、町にいる黒人に理不尽な暴行を加え、徹底的にいたぶる。そして警官と同じ側にたつ人間はミルドレッドに看板を降ろすように圧力をかけ、彼女の周りで不穏な事件がおき始めるのだ。

 

そんな差別主義者に盾突き、ギクッとするような暴言をぶつけ、黒人にも分け隔てなく接するミルドレッドの姿が勇ましく思えた。

 

娘を無くした母の怒り、広告で批判の的にされた警察官の怒り、日頃差別されている有色人種の怒り。そういったドロドロした怒りが混ざり合い、物語は混沌を極めていくのだ。

 

こうした様々な事件の原因が、元を辿ればこの三枚の看板に行き着くというのが興味深い。しかもこの看板はミルドレッドの住む町から外れたゴロツキか迷った人しか通らないさびれた道に建てられたのだ。にも関わらずこの看板はすぐに話題を呼び、人々に事件のことを思い出させ、ついにはテレビ局が取材にまで来たのだ。

 

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こんな看板だけでそこまでの影響が出るのかと思うが、僕たちが考えている以上に広告の力は大きい。例えば毎日のようにテレビで流れるポリグリップのCM。

 

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はっきりいって飯食ってる時にじいさんばあさんの入れ歯のCMなんて見たくないのだ。入れ歯なんて20代の自分には全くもって関係ない。このCMを真剣に見てる若者なんて一人もいないだろう。

 

でも考えて見てほしい。あなたが50年後、60年後に歯が弱くなり入れ歯をはめる必要が出た時、あなたはどんな入れ歯安定剤を買うだろうか。

 

さあどれにしようかと商品棚の前に立って考えた時、小さい時から何度も聞いたポリグリップのCMがふと思い出される可能性はとても高い。もしそれが目についたらかなりの確率であなたはそれを買うだろう。ずっと耳にしてきた入れ歯安定剤なら間違いないだろうと思って手に取るはずだ。

 

このように、一見意味がなさそうな広告も、何度も何度も聞いているうちに頭に刷り込まれ、購買のチャンスを広げているのだ。同様に高須委員長のヘリで登場するド派手なCMや、川平慈英がごくごくドリンクを飲むCMなど、一見今の僕らとは無縁なCMでも、将来整形を考えた時に真っ先に思い浮かぶのは高須クリニックだろうし、仕事や二日酔いでだるい時にコンビニで手に取るのがヘパリーゼになる可能性は非常に高い。

 

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これと同じようなことが10年くらい前にアメリカのビジネス書でトップの人気を誇っていた”紫の牛を売れ”という本で書かれていた。その本には、広告が氾濫している時代にその世代を狙って大々的にセールスをするのはナンセンスだが、将来の客層世代に刷り込むために広告を打つのは効果があると書いてあった。

 

スリービルボードで出てきた看板は集客を意図していない点で異なるが、商品広告と同様に、通るたびに悲惨な事件のことを思い出させ、見た者の記憶にとどめさせる効果を持っていたのだ。

 

ただこれをTwitterに応用するのは少々難しく、1日に何度もつぶやいていたらしつこいと思われてフォローを外されてしまう。望んでなくても情報が一方的に伝えられるテレビや看板広告には効果的だが、Twitterで求められるのは質の高いツイートと、フォロワーが不快に思われない投稿頻度だろう。どんなアカウントでもそこを的確に押さえていれば新規のフォロワーを獲得し保持することができると思う。実際まだそこまで多くのフォロワーを獲得していない僕がいっても説得力に欠けてしまうが。

 

話を映画に戻そう。スリービルボードはとてもカオスな映画だ。アメリカ中西部の廃れた閉鎖的な空気と残酷な事件、それを巡る人間のドロドロした怒りの連鎖。娘のために戦うミルドレッドの痛快な皮肉がとても心地いい。

 

三月下旬までは全国で公開しているはずですので、気になる方は劇場に足を運んでください。

 

「紫の牛」を売れ!

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