オナ禁に効果はあるのか

 

 

我が母校は男子校であった。

男子校に属する高校生にとって、文化祭は一年で唯一女性と触れ合う機会である。

 

いや、触れ合うなんて恐れ多い。

下手すると一年で唯一母親以外の女性と話す可能性のある場という究極の童貞なんかもいたりした。

 

 

遡ること数年前、僕がまだ制服を着ていた頃。

この文化祭という名の一大イベントに全てを賭ける男がいた。

我が親友、ホンダである。

 

僕は彼ほど素直で心の優しい男を知らない。そして彼ほどオナニーに信念を持っている男も知らなかった。彼はこう語っていた。

 

 

「僕にとってオナニーは歯磨きと同じなんだ。朝ごはんを食べたあと必ず歯を磨くように、僕は寝起きと寝る前、かならずオナニーをする。そうすることでまた新しい一日を落ち着いて迎えられるんだ。

オカズは決まって家庭教師モノだ。」

 

 

かっこいいことを言っているようでよくよく聞いてみると全く意味が分からないのだが、当時の僕は彼のこの言葉に感銘を受けた。

 

何を隠そうこの私も物心つくかつかないかの頃にオナニーを覚えてからと言うもの、今に至るまでポコチンをしごき続けてきた男である。

 

しかしまだ恥じらいのあった中学生の頃。当時の僕は、地元のDQNに「おめーもどうせシコってんだろう!なぁ!」なんて絡まれようなら「そ、そんなことするわけないだろう!」と必死に否定した。

 

 

バッチリ夜1回、寝起きに1回してきた後にも関わらず。

 

 

それが男子校に入るとどうだろう。オナニーの話をするのは当たり前になった。なんてったってその話を聞かれて困る相手がいない。やりたい放題だ。しかしその環境が、僕らの異性に対する苦手意識の元凶になったことは言うまでもない。

 

そしてあのホンダという男も、己の運命を呪いながら必死に闘った男のひとりだったのである。

 

 

 

当時、僕らの間でまことしやかに囁かれた噂があった。

 

 

オナ禁するとモテるらしい

 

 

一体誰が言い出したのだろう。この噂は瞬く間に広まり、みなオナ禁は凄まじいパワーをもたらしてくれると信じ始めた。そして文化祭で女の子とのムフフな展開を夢見る僕らの間でこんな運動が始まった。

 

 

"文化祭まで2週間オナ禁をしよう。"

 

 

この合言葉の元、今までのどんなときよりもクラスが団結した。

 

悲しきかな。

男子高校生の心を一致団結させたのは体育祭でも合唱コンクールでもなく、オナ禁だったのだ。担任の先生が聞いたら呆れてものも言えなかっただろう。

 

やってやんぞ!

 

まるでこれからラスボスでも倒しに行くかのように意気込む男子高校生たちの姿に僕は圧倒された。

 

何を隠そうこのオナ禁運動で1番衝撃を受けたのは僕だった。

 

まだ恥じらいを捨てきれていなかった僕は高校に入っても普段おおっぴらに性の話はしなかった。そういうお下品な話とは少し距離を置いていたのである。オナニー?うーん、たまにしかしないなあ。そんな感じではぐらかしていた。バッチリ毎日2回していたにも関わらず。

 

そしてそんな猿のような性欲を持て余した僕にとって2週間のオナ禁は拷問以外のなにものでもなかった。どう考えても不可能である。一日とて我慢できない僕に2週間は長すぎる。ダメだ。出来るわけがない。

 

するとそんな僕の肩にポンと手を置いた男がいた。ホンダである。

 

 

ー中島、いっしょに闘おうじゃあないか。

 

 

あの寝起きと寝る前必ず家庭教師モノで致すホンダが、オナ禁を決意したのだ。

 

 

このホンダには夢がある。

 

 

ジョルノのようなセリフを言い残し、彼はその場でブックマークしていた家庭教師モノのエロ動画を全て消した。

 

 

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俺は童貞をやめるぞー!!!

処女ー!!!

 

とでも言い出さんばかりの勢いで彼のオナニーライフをサポートしてきたブックマークの数々をスタープラチナばりの目にも止まらぬ速さで消し去っていったホンダ。

 

漢ホンダは文化祭で念願の彼女を作るため、一大決心をしたのだ。

僕は彼を心から尊敬した。

 

 

そしてホンダは耐えた。

 

文化祭までの2週間、寝る前にスマホを廊下に置き、ベッドでいじらないようにした。

 

ネットサーフィンをしてエッチな広告を見ないように、ゲームなど広告が出るアプリは全て消した。

電車の中吊り広告にあるグラビアも危ないので、目をつぶって電車に乗った。

 

山手線の車内で直立不動の姿勢で目をつぶり座る彼の姿はブッダの再来であった。

 

電車に差し込む陽の光が彼の背中にあたり、後光が指しているかのようだった。

 

 

ああ、ここに神がいる。

 

 

オナ禁が十日を過ぎた頃から、ホンダに本当に後光が差しているのを目撃したクラスメイトが現れ始めた。

 

半眼で静かにお弁当を食べる姿は弥勒菩薩像そのもの。

 

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日に日にホンダの股間、いや、五感は研ぎ澄まされていった。

 

 

 

そして、2週間後、文化祭当日。

ホンダは本当の神になった。彼はついにやり切ったのだ。

欲と戦い、打ち勝ち、勝利を手にしたホンダの眼光は鋭く、生気がみなぎっていた。

 

ーやってやろうじゃあないか

 

ホンダはそう言い残し、女子の連絡先を聞くため、人だかりの中に突撃していった。

モーゼが海を割ったように、童貞が一人、女子高生の中に飛び込んでいった。

 

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聖剣エクスカリバーのごとくスマホを握りしめ女子高生の群れに立ち向かうホンダの後ろ姿は、今も脳裏に焼き付いている。

 

 

 

 

僕は皆さんに聞きたい。果たしてホンダは目的を達成出来たのか否か。

 

答えはYESでもありNOでもある。

 

たしかにあの日、ホンダは連絡先を交換することが出来た。しかしそれはたったの1件だった。しかも1件だけというのが災いし、彼は最もやってはいけない「執着」をしてしまったのだ。

 

ー僕には彼女しかいない。

 

そう語る彼のLINEは一文一文が恐ろしく長く、返信が1週間に1回になっても可能性を信じて待ち続け、ついには友達伝いでとっくに彼氏がいたことを知らされ、無惨にも敗れ去った。

 

「連絡先を交換する」という目標は確かに達成されたが、2週間のオナ禁に見あった成果が得られたかと言えばそれはNOだ。

 

 

 

後日、ホンダはこう語った。

オナ禁に効果はなかった。

 

「地球は青かった」と言ったガガーリンのように語る彼の目は虚空を見つめていた。

 

悲しきかな。文化祭が終わったあと、そこで出会った女子と上手くいっていたのはオナ禁なんかしていなかったお猿さんたちだったのである。

 

そして何を隠そうこの僕もオナ禁は全くしなかった。

 

なんなら初日から「こんなの無理に決まってんだろ!やってられっか!」とパンツを勢いよく脱ぎ出した始末だった。

 

しかし結果としては極めて上手くいったのだ。文化祭当日、僕はクラスのノリがいいんだかはた迷惑なんだかよく分からない集団にのせられ片っ端から声をかけていた。

 

下手な猟師でも100発鉄砲を打てば1発は命中するように、数を撃てば当たるものなのだ。結果20件ほど連絡先を交換し、その後付き合うにはいたらなかったがうち何人かと遊んだりしてそれなりに楽しい時間を過ごすことが出来た。

 

 

これは決して自慢ではない。僕が伝えたいのはたったひとつ。

 

オナ禁なんかするよりノリと勢いでいった方がうまくいく

 

ということだ。

 

 

まず冷静に考えてオナ禁にそんな凄まじいパワーがあるわけが無い。

たしかにホルモンの関係で肌が綺麗になるくらいならありそうだが、肌が綺麗になった程度で人生うまくいくならみんなそうしている。

 

そんな単純な話ではないのだ。魔法使いのような魔力が手に入ることは決してない。

事実、あのときオナ禁をしたホンダはなんと現在も童貞のままであり、このままいくと30歳で童貞という本当の魔法使いになってしまいかねない状況にある。

 

 

とにかくオナ禁に大した効果はないのだ。

 

俺はやり切ったという自信がつくくらいである。

 

むしろオナ禁して毎日悶々と過ごし色んなことが手につかなくなり、いざ女の子と話してポコチンがおったつことになるくらいなら毎日スッキリして色々な人と話してコミュ力を上げた方が100000倍いい。

 

そしてなにより勢いが大事だ。誰も君のことなんて気にしてないし、異性と話したりご飯に誘ったりすることは何も変なことじゃない。オナ禁するしないに関わらずどんどん話しかければいい。何も恥ずかしいことはない。よっぽどそっちの方が場数も踏めるし生活に支障を来さない。

 

とにかくオナ禁に意味はないのだ。オナ禁をやり抜くくらいの精神力があるならもっと他のことができるはずだ。その精神力を人と話したり筋トレしたり勉強したり、もっと有意義なことに使って人としての底力、魅力を高めたほうがずっといい。

 

 

さあ、ここまでオナ禁について熱く語ったがいかがだろうか。

僕がここまであけっぴろに語ったんだから次は君たちの番だ。

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