ふたりのアオキ

高校の同級生にアオキというめちゃめちゃ勉強ができる男が二人いた。ふたりは同じソフトテニス部に所属してたけど、タイプは全然違かった。

一人のアオキは、天才型のアオキだった。勉強なんて授業受ける以外してないと豪語する彼はいつも学年トップの成績だった。天才型のアオキは授業中めちゃめちゃ質問をし、その場で全てを完全に理解した。そんなアオキはちょっと変わった男で、授業中数式を見て急に笑いだしたり、ひとりでぶつぶつ話したりしている男だった。

だが紛れもなく彼は天才である。

そんな彼を僕らは勉強のしすぎで頭がおかしくなっちまったんだと思っていた。
 
 
もう一人のアオキは努力型のアオキだった。僕はこんなに勉強してるやつを見たことがない。この努力型のアオキとは高一のときにクラスが同じった。入学式を終え教室に戻ってきた時、なんとアオキは勉強していたのだ。ものすごい勢いでまだ当分使わないであろう数学の教科書をめくっていた。
まだ初対面で話したことすらなかったけど僕はアオキを見て、やばい奴がいるものだと思った。彼は次の日もその次の日も勉強しまくっていた。やがて部活に入り、高校生活に慣れてきても、アオキは勉強し続けた。

教室間の移動はダッシュ。始業まで余った時間で単語帳を読む。

分からないことがあれば昼休みだろうと放課後だろうと関係なく職員室へ猛ダッシュした。

朝は一時間目が始まる一時間半前に登校し予習を済ませ、夜は部活後誰よりも遅くまで残り、その日の復習をした。

夏は汗だくになりながら、冬は寒さに震えながらアオキは勉強した。なによりこの努力型のアオキがすごいのは、この超絶努力を高校時代3年間ずっと貫き通したことだ。

2年になりクラスが別れてもアオキの噂はよく耳にした。入学当初真ん中だった彼の成績はぐんがんあがり、やがて校内のテストの成績優秀者に名前が載った。

そして高3になる頃には全国模試の成績優秀者にからの名前が載っているのを見た。
 
しかしその努力型のアオキの1歩先を常に天才型のアオキが歩いていた。模試ではいつも天才型のアオキが一番だった。僕の知る限り、努力型のアオキは天才型のアオキに1度もテストで勝ったことがない。
 
そして僕らはセンター試験を迎えた。僕はそのとき天才型のアオキと努力型のアオキと同じクラスで、センター試験も同じ教室で受けた。
 
天才型のアオキは全く緊張していなかった。実際、試験中にふと彼の方を観ると開始から半分くらい経ったとこで突っ伏して寝ていた。しかも一科目終わるごとに教科書を開き、わかる範囲で答え合わせをしていたのである。

なんという余裕っぷりだろう。そして休み時間にはなんと魔法少女リリカルなのはを観ていたのである。
なんてこった。
 
 一方、努力型のアオキはいつものようにめちゃめちゃ勉強していた。センター当日だろうと何だろうと関係ない。一科目終われば周りの声を遮断するためにすぐにイヤホンを付け、参考書にかじりついていた。試験が始まるギリギリまで知識を確認していた。
 
 結果、二人とも校内でぶっちぎりの点数を取っていた。僕は心から彼らを尊敬した。
 
 そして1ヶ月後、二次試験があり、それから何日か経って卒業式を迎えた。僕は既に浪人が決まっていて、死にそうな顔をして式に出た。
そしてこのとき二人のアオキの受験結果を聞いた。
 
 

 

天才型のアオキは余裕で合格し、努力型のアオキはあと2点足りず落ちていたのだ。
 
 
 
 
だが努力型のアオキは腐らなかった。
 
 
 僕は彼と同じ予備校に入った。クラスは違うがよく彼の姿を見た。
 
 努力型のアオキはなんにも変わらなかった。
授業初日から真っ先に自習室にこもり、わからないことがあれば講師室に駆け込んだ。移動は相変わらず小走りだ。
自習室が閉まる時間に荷物をまとめる彼をよく見かけた。
校舎を出ると彼は駅までダッシュし、同じく朝に登校するときも、全力で走っていた。
 
 誰よりも早く予備校に現れ、誰よりも遅くまで予備校に残る。
 
 アオキはこの生活を一年間貫き通したのである。
 
 そして彼の名は全国模試の成績優秀者に1年間載り続けた。
 
 そしてセンター試験、二次試験を経て、ついに彼は第一志望に合格したのだ。
 
 

ふたりのアオキはいま東大に通っている。
 
 
 久しぶりに彼らをFacebookで見かけた。二人とも留学し海外の大学に通っていた。
 
 プロフィール画像はそろってどこかの海辺でカメラに背を向けて撮った写真だった。傍から見たら意識高い系によくあるプロフ画像だが、彼らはそんな中途半端な存在じゃない。実際に行動しまくっているのだ。

この二人のアオキから僕が学んだことは、自分は本当の天才とはかけ離れた凡人だということ。それと、超絶努力を貫き通せば、いつか天才に追いつけるということだ。
 
なれるもんなら僕は天才型のアオキに生まれたかった。でもそれは叶わない。なにかすごいことをするためには、努力型のアオキになるしかないのだ。彼のように死にものぐるいで、何年も何年も突っ走って勉強するしかない。
 
 しかしいざ自分を振り返るとどうだろう。大学に入ってから、真剣に勉強したことなど数える程だ。彼らとの差は広がるばかりじゃないか。普段は何もしないまま、テスト前だけ勉強し、ただ進級するだけ。そんなんで彼らに追いつけるはずがない。
 
 僕は自分の行動を恥じた。
 

そうだ、あの二人と飲みに行こう。スマホを取り出しLINEをした。
 
送ったメッセージは海を越え、遠い国にいる彼らの元へ届く。
 
 ーごめん。9月まで帰らない。
ー今度いつ帰るか未定。
 
 彼らは僕の手の届かないところまで行ってしまったようだ。
 
 
でもー
 
 
こんなところでうかうかしている場合ではない。
 
 僕も彼らに追いつかなくてはー
 
 そう決心し、僕は久々に机に向かった。
 

 

 

 

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(この記事は過去に書いたものを一度noteに以降し、再度本ブログにアップするために修正したものです)

(先日開いたイベントにこの努力型のアオキの友達の東大の方が来ており、今度彼と一緒にアオキと再会することになりました。不思議なご縁です。)

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