牛丼屋のおばあちゃんと震災

最近一人暮らしを始めた僕は、今日もいつものように夜ご飯を食べに牛丼屋に行き牛丼を注文した。なんの表情もなくただ牛丼をかき込むサラリーマン、スマホをいじる大学生、カタコトの日本語で一生懸命に接客する外国人店員。いつもと変わらない光景だ。数分後、注文した牛丼が届く。

 

「お待たせしました〜」

 

そう言って俺の前に牛丼を置いたのは腰の曲がった、かなり高齢のおばあちゃんだった。「こんなおばあちゃんも牛丼屋で働いているのか」と思いながら黙って牛丼を食べる。その間も、おばあちゃんはテキパキと牛丼を運び続け、帰るお客さんには丁寧すぎるくらいに笑顔で「ありがとうございました〜」と伝えている。

そんなおばあちゃんの姿をみているうちに、僕は自分のおばあちゃんを思い浮かべていた。

牛丼を食べながら、おばあちゃんの元気に働く姿を見る。僕の目の前、水の入ったコップの横にはレシートが置かれていた。

その日付は2020年3月11日。

東日本大震災から、9年の月日が経った。

 

 

9年前のあの日、僕は中学生2年生で理科の授業中だった。今まで経験したことがない揺れを体験し、机の下で一体僕らはどうなってしまうんだろうかと怯えていた。

僕の母は岩手の宮古出身だった。そう。まさに津波が直撃した街だ。母の友達も何人も津波に巻き込まれて亡くなり、その訃報を聞くたびに泣き崩れていたのを覚えている。

僕の実家には父方の祖母がいて、母方の祖母はまだ宮古に住んでいた。山の方に住んでいたので被害はなかったが、震災直後は連絡が全く取れず、僕たち家族は心配で夜も眠れなかった。

岩手のおばあちゃんとは、この10年間一度も会っていない。震災の前年におじいちゃんが亡くなり、そのお葬式に岩手を訪れて以来、一度も会っていないのだ。

 

岩手のおばあちゃんは農家を営んでいて、小さい頃、会いに行くたびに畑仕事を手伝った。弟と一緒にキュウリやトマトの収穫を手伝い、一仕事終わった後におばあちゃんが買ってきてくれるサイダーを飲むのが何よりの楽しみだった。

曲がった腰でトラクターを操り、僕らより遥かに速いスピードで野菜を収穫するおばあちゃんは、東京の公園で暇そうにゲートボールをしているジジババよりもずっとたくましく思えた。

そしておばあちゃんの手料理も美味しかった。畑で獲れた野菜や、もち米から作ったおもちは絶品だった。

そんな元気だったおばあちゃんの姿が、にこやかに、そしてテキパキと仕事をこなす牛丼屋のばあちゃんの姿と重なり、僕は胸が締め付けられた。

 

10年前元気だったおばあちゃんは、今では認知症が進んで施設に入ったらしい。実のおばあちゃんなのに「らしい」という不確かな情報しか知らない僕はなんておばあちゃん不孝なんだろう。思い返せば、僕が今までおばあちゃんと会った総日数は100日にも達していないかもしれない。

そして最後に会ってから10年間、僕はおばあちゃんの顔すら見ていない。そして震災後の宮古にすら行ったことがない。

 

震災の日、テレビで流れた津波の映像。黒い波が飲み込んだいくつかの場所は、僕が幼いときおばあちゃんに連れられ、行ったことのある場所だった。おばあちゃんと一緒にサイダーを買いに行ったスーパーや、魚を買いに行った市場。他にもたくさんあったはずなのに、もう思い出すことができない。

今、おばあちゃんは元気なのだろうか。一つ、また一つとくたびれたサラリーマンにせっせと牛丼を運ぶおばあちゃんを見て、僕は涙が滲んできた。

スマホを取り出し、母にLINEをする。

「岩手のおばあちゃんは元気ですか?」

どうか、元気であってほしいと祈りながら、僕は店を後にする。

牛丼屋のおばあちゃんが「ありがとうございました」と声をかける。

「ごちそうさまでした」と応える。

 

またおばあちゃんの手料理を食べて「ごちそうさまでした」と言える日は来るのだろうか。

 

いや「来るのだろうか」なんて言葉は無意味だ。自分から会いに行かなくては、その日は永遠にこない。「また今度ね」と行ってから、あまりにも長い年月が経ってしまった。今度こそ、僕はおばあちゃんに会いに行こう。

 

「また明日」と言って、その明日を迎えられなかった人たちがいた。

 

そのことを忘れず、今日も精一杯生きていこう。

 

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