最悪な合コンに行った話

 

 

大学生といえば合コン!なんて今は言わないのかもしれないし、僕も3年生になるまで合コンなんて都市伝説だと思っていた。しかしそんある日、友達に誘われて人生初の合コンに行くことになった。最も『合コンしようぜ!』なんて誘われたわけではなく、『俺のサークルの女の子とその知り合いたちと飲むから良かったら来ない?男足りてなくて。』的な感じだった。合コンの定義は分からないが、これは合コンと呼んでも差し支えないだろう。寒い冬の日、僕は初の合コンに心を踊らせながら渋谷に向かった。

今回誘ってくれたのは某国公立大学に通う2人組。経済系のサークルに入っていて、頭のキレる男たちだ。身長も高くイケメン。まさに高身長・高学歴・高収入の三高が揃っている。対する僕はただの筋トレ野郎だ。高タンパク・高重量くらいしか誇れるものがない。あと強いていうなら意識が高いことくらいか...一体どう自己紹介でアピールしたらいいんだ。あえて『高』ではなく『低』で勝負するか。低学歴・低糖質・低脂質...いかん。また筋トレに返ってきてしまった。しかも何のアピールにもなっていない。

一足早く男性陣だけ集またった。集合場所はTSUTAYAの下。みんなしっかりオシャレして来ていた。

『今日はよろしく〜』とカイト。『うっす』とサトシ。さすがはエリート。合コンにも余裕の表情だ。

 

そして店に向かう。女性陣とは入り口で合流した。彼らとニュースメディア系のインカレサークルで知り合った人が1人と、その友達たちだ。都内の女子大に通っているらしい。

ワインバル的なよくある洒落た感じを出してる居酒屋に入り、席につく。男三人が一列に並び、女性も向かいに一列に並ぶ。そしてお酒を頼み合コンスタート。

『かんぱーい!』

サトシの合図でみんなで乾杯。自己紹介から入る。僕はこのときまだ2人を合コンの達人だと信じていたのだが、それは大きな勘違いだった。

 

『それじゃ自己紹介しようか。僕はサトシ。〇〇大の経済学部なのはみんな知ってるよね。今は〇〇目指して就活中で〜』とハイスペ感溢れる自己紹介。続くカイトも『今〇〇大に行きながらプログラミングの勉強して〇〇の開発してます』と話す。さすがすぎる。一方僕は『筋トレが趣味です。今日もジム行ってきました。好きな筋トレはベンチプレスです。』と筋トレの話題で済ます。

 

続いて女性陣の自己紹介。ここで「えっ」となる出来事が起こる。

彼女たちの自己紹介に対し『君たちの大学は頭良くないよね〜』と何の悪気もなく男たちが言い出したのだ。『今日話合うかな〜大丈夫かな〜』なんて言ってやがる。おいおい待ってくれ。お前たちは今日何をしに来たんだ。

『えーひどーい』と彼らの言葉を流す女子大生。そんなに気にしてないようだが、言われて嬉しい言葉ではない。大丈夫か。

若干の違和感を感じながら話に入っていく。僕は向かいに座っていたアカリと話した。栄養学を学んでいて、食品業界で働きたいらしい。筋トレをしてる僕としては、どんな食材が筋肉の成長に役立ち、逆にどんな食事が悪影響を及ぼすのか気になるところだ。また食品業界について全く知らないので、どんな会社があってどんな仕事をするのかとても興味が湧いた。

「胸肉ってどう調理すると柔らかくなるのかな」「会社に入ってどんな仕事するの?」

いろんなことが知りたくて質問をして、僕も『なんで筋トレ始めたの?』『どこのジムに通ってるの?』など聞いてもらい会話が弾んだ。

一方で他の男性陣はものスゴい一方的に会話をしていた。

『俺は〇〇って言語で▲▲の開発してるんだけど、え?〇〇も知らないの?』

『僕は●●でインターンしてるんだよね。スタートアップ界隈では結構有名なんだけど、まあみんなは知らないか』

おそらく彼らはいかに自分がハイスペックなのかをアピールしたいのだろう。女性陣に話す隙を与えず、一方的に話していた。

ここで一旦席替えタイム。おお、これが席替えか。噂に聞いたことあるぞ。まだ話していない女子2人のそばに座り、会話を再開。僕は先ほどと同様にいろんな気になることを質問し、逆に質問してもらったりしながら楽しく話した。すると突然、『みんなみて!これからマジックします!』とサトシが立ち上がった。

なんだ。一体なんなんだと動揺する僕を尻目にポケットからスプーンを取り出すサトシ。

『今からこのなんの変哲もないスプーンを曲げます』

事実は小説より奇なりという言葉があるが、僕は今まさに「奇」な光景を目の当たりにしていた。突然始まるマジック、の割にド定番のネタ、なんの変哲もないわけがないスプーン。呆気にとられる僕らをよそに、サトシは『はっ!』とスプーンを曲げてみせた。そして、以上。スプーンが曲がった。以上。そこから先は何もない。

これ以上に「お、おう...」がふさわしい状況はないなと思いながら「す、すげえ〜」と拍手する僕。それに連られて「すご〜い!」と賛辞を送る女性陣。カイトは『これだよこれ』みたいな満足気な顔をしている。嘘だろお前。

そんな微妙な空気を物ともせず、2人は自慢のトークを繰り広げた。自慢のトークとはトーク力がすごいわけではなく、ただただ自慢をしているだけのトークだ。

僕としては『そんな一方的に話してたらダメだろ...』と思ったのだが、女性陣は『すごーい』『そうなんですね〜』と返している(確実に乾いた反応ではあったが)。ん?待てよ?これが噂に聞いてた『モテる女のさしすせそ』ってやつか!?

 

さ: さすが〜

し: 知らなかった〜

す: すご〜い

せ: センス良いですね!

そ: そうなんだ〜

 

こんなさしすせそが存在していると風の噂で聞いたことがある。しかし、何だこれは。こんなのがモテるさしすせそなのか。大体女性に限らず誰でも日常会話で使うだろ。僕だって使う。ええい。こんなくだらないさしすせそはおしまいだ。今日からこれに変えよう。

 

さ: さすが〜

し: 知らなかった〜

す: すご〜い

せ: 背中デカイよ!!!

 

 

通常のさしすせそを使いながらさりげなく背中を褒めよう。世の筋トレ男子たちは懸垂を愛している。道端にぶら下がれる棒を見つけようものならすぐに飛びついて懸垂を始めてしまうのだ。懸垂は広くて大きなカッコいい背中を作る。しかし腕や胸と違って鍛えてもなかなか服を着た状態だと自慢の背中をアピールできない。『私、背中もちゃんと鍛えてるの、知ってるんです』なんてアピールもできちゃうのでぜひ『背中デカいよ!』を混ぜてみて欲しい。他にも『背中にユーラシア大陸!』『背中広すぎてパンこねれるわい!』なども語彙力の豊富さや比喩能力をアピールできる。

さらに上級者編として『三頭筋がチョモランマ!』『僧帽筋ラグビーボール!』なども効果大だ。

以上、今日からモテるさしすせそは

 

さ: 三頭筋がチョモランマ!!!

し: 知らなかった〜

す: すご〜い

せ: 背中デカイよ!!!

そ:僧帽筋がラグビーボール!!!

 

だと認識を改めてほしい。

いや何の話をしてるんだ。

それはさておき、盛り上がりにかけるまま合コンは終了し、解散した。

『これから二次会行く人〜』とサトシ。いや、こんな状況で誰が行くんだ。当然誰も手を上げず、僕らは各々家路についた。

帰りの電車、一体あの合コンは何だったんだろうと、僕は1人頭を抱えた。初めての合コン、あまりにも酷すぎる。最悪だ。

 

まず第一に、コミュニケーションで大切なのは言葉のキャッチボールだと僕は思う。相手の言葉に耳を傾け、受け止め、気になったことを質問し、答えてもらい、逆に質問してもらう。この基本的な流れで会話が成り立ち、何往復もするうちにお互い親しくなっていく。もちろんアピールしたいことがたくさんあるのは素晴らしいことだが、一方的に言葉を投げ続けてはいけない。それは言葉のキャッチボールではなく、デッドボールだ。自分だけいい気になっても、相手はさぞつまらないことだろう。人はみな喋りたい生き物なのだ。気持ちよく相手に話してもらうことが何よりも大事だ。さっきのさしすせそじゃないけど、適切な相槌を打って、相手が満足しながら話せるよう気を配らなくてはいけない。

そしてまず学歴で相手を判断したり、知識がないからどうせ分からないだろうといった上から目線な男はお話にならない。確かに相手はその話題を知らないかもしれないけど、知らない相手にいかに分かりやすく伝えられるかが君たちの頭脳の見せどころではないのか。僕はハッキリ言って学歴はモテに関係ないと思っている。いわゆる高収入な会社で働く社会人ならまだしも、いくら学歴が高かろうが大学生の収入に大差はない。現時点で高学歴でマウントを取ったところで相手が享受できるメリットは何もない。彼らの学歴は将来性という期待値があるだけだ。そして世には頭のいい大学に通ってる人なんて何万人もいるのだから、ただそこに籍を置いてることに希少性はない。だったらどんなに難しい話題でも面白おかしく、そして分かりやすく相手に伝えるスキルを磨いた方が、モテにつながるだろう。知的さは肩書きでなく、所作からそれとなく伝えるのが一番カッコいい。

そして最後に空気を読む力だ。突然マジックを始めたり、しかもそれが大して面白くなかったりと、あの2人は一体何を感じていたのだろうか。スプーンを曲げるマジックが悪いと言ってるわけではない。例えばお調子者が『おれマジックできるんすよ〜』とおちゃらけてテイッとスプーンを曲げたら、軽いノリの雰囲気だったら『何!?それだけ!?』『期待させんなよ〜』てな感じでウケを取れる場合もある。しかし今回のように大して盛り上がってない&誰かがいじられキャラになっていない状況でやるのは明らかにナンセンスだ。

僕が思うに、合コンでは状況を俯瞰し、会話を回す役に徹するのが賢い戦い方だと思う。僕も今回の場合、サトシやカイトのように俺が俺がと話しにいくのは違うなと思い、相手の話を聞き、質問し、会話を回す役に徹した。また時折全体を見回しながら、今誰がどんな会話をしていて、どのくらい盛り上がっているのかも確認した。もちろん全員回す役になれば誰も積極的に話す人がいなくなるので意味ないが、全体を俯瞰して状況を把握すれば誰と話すターンになっても落ち着いて対処できるだろう。

人生初の合コンは苦い経験であったと共に、学びの多い会だった。もし皆さんも合コンに参加する機会があれば、会話のデッドボールにならないように気をつけ、全体を俯瞰しながら相手の話に耳を傾けてほしい。

それでは素敵な1日を。

 

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