皆既月食を見て、宇宙に熱中していた少年時代を思い出した

 

昨日1月31日、265年に一度と言われるスパーブルーブラッドムーンなる皆既月食が見られた。最近だとやたらスーパームーンだのが話題になって、10年に一度とか100年に一度の天体ショーがなんだかんだで毎年起こっているような気もするが、昨日の月食は神秘的だった。

 

次第に月が欠けていき、完全にすっぽりと影に覆われたかと思いきや、赤みがかった月が再び姿を表した。

 

吐く息が白くなる寒い夜空の下で1人空をみ、はるかかなたの月に思いを馳せた。

 

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僕は中学生の時、天文学者になるのが夢だった。小さい頃から宇宙が好きで、小学生でも楽しめる綺麗な銀河とか惑星の写真が載った図鑑を夢中で読んでいた。僕はとにかく色がド派手で花火のように爆発した銀河の写真が好きで、オリオン座だとか、北斗七星みたいな、ただ白い小さな星が作るよくわからない星座には興味がなかった。

 

第一、都会の夜空は明るい。星座が見えるような暗い夜空は今ではもう珍しいものになっている。

 

 

そんな僕は、東北に住むおばあちゃんの家で美しい星空を眺めたことがある。おばあちゃんの家は本当に山奥にあって、最寄駅から車で1時間、近くの学校まで歩いて40分、コンビニもスーパーもないような本当のど田舎だった。僕は毎年そこに家族と一緒に夏に一週間ほど帰省していた。

 

おばあちゃんの家で過ごす一週間は、なかなかエキサイティングだった。朝6時ごろになると、牛舎の牛が鳴きだし目がさめる。山の朝は涼しく、おばあちゃんと一緒に早朝の畑にきゅうりを取りに行った。朝ごはんを食べると村の役場まで連れて行かれ、地元の子どもたちとラジオ体操をした。ここら辺の小学校はもちろん生徒が少ない。全校生徒50人くらいで、一年生から三年生まで同じ教室で授業を受けていると聞いた。

 

ラジオ体操が終わると、僕は農作業を手伝った。田んぼに行って稲の様子をみる。ビニールハウスに行って水をまく。トウモロコシ畑に行って、食べられそうなものを収穫する。田んぼに入れば泥だらけになり、ビニールハウスの中は真夏の熱気でムンムンと蒸し暑く、トウモロコシをとって戻る頃にはクタクタになっていた。僕はそんな田舎の生活が新鮮で楽しかったけど、こんなことを毎日おばあちゃんがしているのかと思う心配になった。

 

そして午後はずっと虫取りをしていた。そのころの僕は昆虫採集にはまっていて、そこら中の虫を捕まえては虫かごにぶち込んで飼っていた。飼ってたカマキリの卵が孵化して部屋中がカマキリだらけになったこともあったし、カブトムシを飼ってた箱から腐葉土と昆虫ゼリーのにおって玄関に染み付いてしまったこともあった。今考えると親には申し訳ないことをしたなと思う。

 

そんな僕は相変わらずおばあちゃんの家で虫取りに興じた。田舎には山ほど虫がいる。そして都会にはいない珍しい虫も、ここでは当たり前のように見かけるのだ。僕の狙いはオニヤンマだった。それも特大の。陽が高くて照り、汗だくになりながらも僕はオニヤンマを探した。麦わら帽子から汗が滴る。半袖短パンに右手に虫あみ、肩に虫籠を掛けて、僕は山を駆け回った。そしてついに15cm級のオニヤンマを捕まえたのだった。

 

そしておばあちゃんの家で過ごす最後の夜。僕らは庭でバーベキューをした。それまで疲れてまだ明るい19時には寝てしまっていたので、夜空の下に出るのはそれがはじめてだった。田舎の夜は、光に吸い寄せられた蛾が無数に飛び交っている。火の光に寄せられた蛾がそのまま火にあたり、落ちていったのを今でも覚えている。

 

バーベキューも終わる頃、僕はおばあちゃんに連れられ、畑のある暗いところまでいった。上を見てごらんと言われ、僕はそこで初めて星空を見たのだった。おばあちゃんはあれが何座だよと教えたりはしなかったが、都会とは比べものにならないくらいたくさんの星が、明るくはっきりと、肉眼で見えたことにとても感動したのを覚えている。

 

翌日、おじいちゃんの車に乗って、僕らは駅までいった。牛を売りに出すときにその車に乗せていくんだそうで、車内は草だらけで、牛のにおいがしていた。

 

 

 

僕は新幹線から、小さくなっていく山々を見つめ、東京に帰っていったのだった。

 

捕まえたオニヤンマはニスを塗って剥製にし、クッキーの丸い缶に綿を詰めて上からラップをして部屋に飾った。

 

 

おばあちゃんと星空を眺めてからというもの、僕にとって宇宙は身近なものになった。今まで興味がなかった星座も、あんなに美しくはっきりと見えたことにびっくりして、どんな星が星座を作っているのかを調べ、気が遠くなるほど遠くにあることを知り、宇宙の途方も無い大きさに圧倒された。

 

やがて僕の興味は科学的なものに移り、中学生の頃には相対性理論だとか、量子力学の簡単な本を読むようになった。中二病と言われてしまえばそれまでだが、学校の理科とは違うより高度なものを、なんとなくでもいいから理解することは楽しく自分はアインシュタイン、ホーキング、ボーアといずれ肩を並べる天才なんだと思い込んだ。僕はいつか天文学者になるんだと、心の中でそう誓った。

 

でも高校になると、その過信は瞬く間に崩壊した。上には上がいることを身を以て痛感した。数学だとか物理を根本からしっかりと理解するという作業がとても苦痛で、その場でうわべをささっと覚えて問題はなんとなく解けるというような、とても学者には向いてない頭になってしまった。それからというもの、僕の頭から天文学者になるという夢はすっかり消えてしまったのだった。

 

 

やがてあれほど好きだった虫たちは僕にとって気味の悪いものになり、大事にとっていたオニヤンマの剥製は捨て、スマホの壁紙にしていた馬頭星雲の写真は、いつの間にか暁美ほむらに変わっていた。

 

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たった数年で天文学者を目指していた少年は、立派なオタクになってしまったのだ。

 

そしてさらにそれから数年たった今、オタク時代に集めていたグッズをほとんどメルカリで売り飛ばし、部屋にはいつまで経っても読まないビジネス書が積まれている。毎日の生活は代わり映えしないものになり、自分が無機質な何かに変わっていく気がしていた。

 

そんな中、ふと皆既月食を見て僕の懐かしい思い出が蘇った。やっぱり宇宙は美しい。銀色に輝く帽子のようなソンブレロ銀河、渦を巻くM51。

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ダークマター、ヒッグス粒子に超ひも理論。まだまだ解明されいない謎が山ほどある。

 

たまには遠い宇宙に思いを馳せる、そんな時間があってもいいんじゃないかな。

 

そんなことを思わせてくれた皆既月食だった。

 

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